#大腸カメラチャレンジ
ぼくは痔持ちである。
しかも切れ痔といぼ痔のダブルスタンバイ。切れたかと思えば飛び出し、飛び出したかと思えば切れる。便座から立ち上がって後ろを振り返ると、文字通りの出血大サービスをかましていたこともある。
これまで便器の水が赤く染まっていたことはあったが、ここ最近は便そのものに血が混じっていることが増えた。
恐くなったぼくは「便 血 混じる」でググる。腸の出血が便に混じり排出された可能性があるらしい。腸からの出血、、もはや痔じゃねぇ、、ヤベェ、、
ちょうど違う病気で通院していたぼく(満身創痍)は、診察ついでに耳鼻科の先生に痔の相談をするという暴挙に出た。我ながら思い切った判断だったと思う。
主治医はとてもいい人なので、親身に相談に乗ってくれた。彼が神様に見えた。
彼はこう言った。
「大腸カメラやっとく?」
彼が悪魔に見えた。お尻に何か入れるってそんなバカなことがあってたまるか。ここまでぼくは純潔を守り抜いてきたのだ。
「何か異常があってもよくないから、一応ね」
彼の一言に観念し、ぼくは泣く泣く大腸カメラの検査を受けることにした。
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そもそもこれを読んでいる紳士淑女の皆様は、お尻にカメラを入れるまでの段取りをご存知だろうか。大まかな流れをいかに記しておく。
①検査前日は消化の良いものを少量食べる
②検査当日は絶食
③病院で下剤をたらふく飲む→トイレに行く→腸の中を空っぽにする
⑤検査着に着替え、別室に通される
⑥初体験
という流れである。①②に関しては、特に面白いこともなかったので割愛する。お腹が空いただけである。
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お腹が空いたまま病院に到着した僕。検査前の控え室っぽいところに通される。
いくつか椅子と机が用意されており、10名前後の紳士淑女(50代から60代)が談笑しておられた。今日はこの一団で大腸カメラに挑むらしい。名前をつけるとしたら「大腸カメラ義勇団」といったところだろうか。胸騒ぎならぬ尻騒ぎが止まらない。
空いている座席を見つけ、腰を下ろす。目の前にはすでに下剤がスタンバっている。2リットル近くあるだろうか。人類は下剤をこんな大量に飲めるものなのだろうか。
しばらく待っていると看護師さんがやってきた。
「今からみなさんには下剤を飲んでいただきます」
看護師さんがバトルロワイアルのたけしさんに見えた。
看護師さんは続ける。
「下剤を飲んで腸の中が空っぽになった人から、検査を受けていただきます」
「腸の中がきれいになれば、それ以上下剤を飲んでもらう必要はありません」
「何度かトイレに行き、便が透明になったら看護師を呼んでください。検査を受けられる状態かどうか確認します」
たけしよろしく、しきりに首を捻っているように見えたが、幻覚だと思う。
看護師さんが説明を続ける中、ぼくは静かに闘志を燃やしていた。
「早く検査を終え憂鬱な気分から解放されるには、一刻も早く腸の中をきれいにするしかない」
いざ下剤を一口飲む。味の濃いアクエリアスみたいだ。まあまあ飲める。
一杯飲み干した後、差し迫ってくる感覚が腹を襲う。ヤツだ。
すぐにトイレへ向かう。事を終え、控え室に戻る。
義勇団の諸君も次々とトイレへ向かう。
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あれからどのくらい控え室とトイレを往復しただろうか。さながらシャトルランのようである。
看護師さんから「もう下剤飲まなくていいよ、自然に便が透明になっていくから」と言われてからも下剤を飲む手を緩めなかった。早く検査を終えたかったからだ。そのせいで便が透明になってからも、シャトルランの勢いが止まらない。
義勇団の諸君も必死に戦っている。
「〇〇さんはもう透明になったかい?」「わたしはまだ。」「××さん大丈夫?」
お互いを気遣い、励まし合う光景がそこにはあった。試練を共にする我々は、謎の連帯感に包まれていた。無駄に義勇団感が高まっている。
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一番ではなかったが、それなりに早く便が透明になった。検査着に着替え、待合室で順番を待つ。
「次の方どうぞ」
検査をしてくれる先生に呼び込まれた。緊張しながら部屋に入る。
「それでは横になって左を向いてもらえますか?」
言われた通りに横になる。淡々と処置が進んでいく。
ここでいきなり先生の指がお尻にインサート。指!指入っとるがな!
おそらく滑りをよくするためのゼリーを塗られたようだ。声にならない声が出る。
間髪入れず、細長いケーブル状のカメラがぼくのお尻にインサート。意外とするする入っていく。
気持ち悪いけどそれほど痛くはないぞ、、このままいけるかも、、
そう思った矢先、先生が小さい声でボソボソと言った。
「仰向けになってもらえますか」
言われるがままに仰向けになる。カメラがさらに進んでいく。
突如、激痛が走った。
「痛っっっっった!!!!!!!」
腸の形状が通常と少し違うらしく、押し込まないとカメラが入っていかないらしい。押し込む際の痛みがお腹を襲う。
今まで生きてきて出したことのない声が出る。
「うわわああわあああああああぁぁ、、、、、!!!!!!!」
先生が淡々と言う。
「そしたら今度は体を〇〇に向いてみましょうか?」
なんて?!なんて言ったいま?!声小さいから聞こえへんねん!!!!!!
声張りなさいよ!!!!!!わしの呻き声で全部かき消されとんねんこらあああああああ!!!!!!
だが痛すぎて声にならない。その後も右、左、右と体の向きを変えられた。
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耐え忍ぶこと20分ほど。検査は終わった。
特に異常は見つからなかった。
絶食終わりのラーメンが旨くて、目から汗が出た。
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ラーメンをすすりながら考えた。
ぼくはカメラに弱気になっていたのではないか。もっと強気でいればよかったのではないか。そうすれば、痛みももっと緩和されていたのではないか。
「カメラがお尻に入る」のではなく「お尻がカメラを飲み込む」と考えればよかったのではないか。主語は、あくまでぼくのお尻であると考えるべきだったのではないか。そうすれば、カメラを肛門括約筋で引きちぎることも可能だったのではないか。
何をするにしても、主語が何なのか意識することは大切かもしれない。
意識次第で誰しもが強靭な肛門を手に入れられる可能性がある。イメージは現実を引き寄せる。今こそ人類みな、肛門を活躍させるべきだ(シリ滅裂)
完