まつなしのウカツにさらせないブログ

ウカツにさらせないごく普通の日常。

駐車券紛失事件


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昔からおっちょこちょいなところがある。25歳男のおっちょこちょいはそろそろ笑えない。自覚はある。”おっちょこちょい” という可愛い響きでごまかすこと自体、きつくなっている。自覚はある。戒めの意味も込めて事件の詳細を残しておきたい。

この日の僕は急いでいた。会社のイベントに出席するためだ。家を飛び出し、クルマを走らせる。クルマを駐車場に停め、会場に駆け込む。受付を済ませ、駐車料金が無料になる手続きをしてもらう。

駐車券を受け取ったぼくは会場に入り、3時間程度のイベントに参加する。イベント後には懇親会がある。懇親会の会場に向かおうとクルマの前で上着のポケットを漁る。駐車券がない。ズボンの前ポケットにもない。後ろのポケットにもない。リュックサックをひっくり返す。書類やらメガネケースやらお守りは出てくるが、肝心の駐車券は見当たらない。こういうときのお守りではないのかと思いつつ、すみずみまで調べるが出てこない。名刺入れなんかもう5回はパカパカ開け閉めしている。4回開けようが5回開けようがないものはない。10,000回ダメでも10,001回目は何か変わるかもしれないのはドリカムだけである。

どこをどう探しても駐車券は見つからない。どこで失くしたのかも思い出せない。駐車場の管理会社に電話したが、夜間であるためつながらない。詰んでしまった。幸い駐車場から自宅まで近かったので、クルマは明日の朝に出庫することにした。とにかく懇親会に参加しようと、知り合いの方のクルマに乗せてもらい会場に向かう。料金に上限がないタイプの駐車場だったため、会場に着いた後も懇親会に全く集中できない。こうしている今も料金は確実に増えている。気が気でない。食べ物も喉を通らない。お通しがわりの枝豆をちびちび食べた後、血糖値をいきなり上げないためにサラダを先に食べ、フライドポテトとメインのパスタを堪能した記憶があるが、定かではない。


翌日、駐車場に向かう。管理会社に再度連絡してみるが、またしても繋がらない。困ったぼくはイベント会場だった施設の職員の方に助けを求めた。管理会社の方ではないが、駐車場に常駐している職員の方を呼んでくださった。60代後半くらいの方。限りなく透明に近い色のサングラスをかけておられる。仮に名前をスガシカオとする。

2人で駐車場に向かう。スガシカオいわく「駐車券紛失ボタン」なるものが精算機に搭載されており、ボタンを押せば出庫できるらしい。「昨晩それ押せばクルマ出せたじゃねーか」という気持ちが沸き起こる。
しかし、ボタンを押せば割高の料金を支払わなければならないらしい。駐車時間は昨日の昼から計算して20時間を超えている。通常の駐車料金を支払うとなると5,000円程度にはなるだろう。それよりも割高の料金、、10,000円か15,000円、、まさか20,000円、、手の震えが止まらない。

だが背に腹は変えられない。覚悟を決めた。ぼくはシカオに言った。
「このままじっとしてても仕方ありません、、!クルマを出します、、!」

シカオはゆっくりとうなずいた。


クルマを精算機の横につけた。シッカオがこちらをみて言う。
「では押しますよ、、!」
僕はシッカオの目を見て言った。
「お願いします、、!」

「そなたは勇者じゃ、、」
僕は脳内でシッカオのセリフを補完し、現実から逃避することに集中した。ドラクエっぽいセリフだと思ったが、ぼくはしっかりドラクエをやったことがない。ドラクエっぽさってなんだ。


シッカオの手によってボタンが押され、電光パネルに金額が表示された。2人は目を見開いた。





「1,000円」





天はぼくを見放していなかった。
ガシカオスー・シッカオが興奮しながらぼくに言う。
「1,000円?!1,000円だよ1,000円!よかったよかった!よかったねええええ」

ガシカオスー・シッカオがあまりに興奮してしゃべるものだから、ガシカオスー・シッカオの唾が宙に舞う。
それは太陽光に照らされ、きらきらと輝いた。


その瞬間、ぼくは思った。
「駐車券失くした方が料金安いやん」





追伸
WBCライトフライ級チャンピオン、ガシカオスー・シッカオ。
そんな人は存在しない。言ってみたかっただけである。